僕たちの子ども達は、AIと戦わなければいけない世代なのだそうです。10年後、20年後、僕たちが担っている仕事の多くがAIに置き換えられる。
AIが人の仕事を奪う。
こうしたAI論争は、英オックスフォード大学の准教授であったマイケル・A・オズボーン氏が2013年に発表した「雇用の未来 – コンピューター化によって仕事は失われるか」という論文が発表されてから、がぜん注目を浴びる事となりました。
それから10年。今はまだ、そこまでAIに仕事を奪われてはいないようにも思いますが、確実に人間が行っていた仕事をAIは奪っていっている。この完成形は、おそらく僕らの子ども世代が大人になった時だと思うのです。
AIに負けない子どもを育てるにはどうしたらいいのだろう?そう思って手にした本、そうです!「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」です。
- AIに負けない子育てをしたい方
- AIに負けないために身につけたい力を知りたい方
- AIの得意な事、不得意な事を知りたい方
本書と著者のプロフィール
新井 紀子氏
国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学卒業、イリノイ大学大学院数学科課程修了。博士(理学)。専門は数理論理学。2011年より人口知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。(著書発行時)
AIに負けない為に鍛えるべき能力は読解力だった!(書評)
AIが人間の知能を超える日はやってくるのか?
数学者であり、「ロボットは東大に入れるか」という人工知能プロジェクトディレクタであった著者は、AIは東大に合格することはできないし、今後においても、人間の仕事を全て奪ってしまうような事はない、それは幻想だとおっしゃいます。
ですが、AIはすでに上位20%にあたるMARCHレベルの大学に合格する力はすでに持っており、AIが得意な分野、特にホワイトカラーが現在担っている仕事については、今後AIに奪われていくだろうとも予想されています。
AIに肩代わりされないために必要な能力は読解力!
全国2万5000人の中高生に基礎的読解力テストを行った結果、教科書レベルの問題さえ解けない現状を目の当たりにし、危機感をもった著者。AIが不得意とする読解力を身につけて、人間しかできないことをできるようになることが唯一生き延びていく方法だと本書では説いています。
AIはただの「コンピューター」である
AIとは、artificial intelligenceの略。日本語でいえば、人工知能です。ではAIといえば、何をイメージするでしょうか?
僕なら、古くは鉄腕アトム、ドラえもん?最近だとPLUTO!ロボットがまるで人間のような感情を持ったり、動いたりする。そんなイメージでしょうか?
ですが、著者は本書で何度も
基本的にコンピューターがしていることは計算です。
引用:AI vs. 教科書が読めない子どもたち
だとおっしゃっています。
これがAIの現実で、僕が思うAI、つまり鉄腕アトムは幻想ということだと思います。
Siriのおかしな回答
「人口知能は人間にはなり得ないな」と理解するのに最適なのはsiriにたずねてみる事でしょう。
↓Siriの珍回答?下記ページが参考になり面白かったです
本書ではsiriの仕組みについて詳しく紹介してくれていますが、使われているのは、音声認識技術と情報検索技術なんだそうです。
現在の情報検索や自然言語処理は、統計と確率の手法でAIに言語を学習させようとしています。つまり、文章の意味がわからなくても、その文章に出てくる単語とその組み合わせから統計的に推測して、正しそうな回答を導き出そうとしているのです。
引用:AI vs. 教科書が読めない子どもたち
確かにsiriにたずねて出てくるレストラン等も、検索結果が表示されるだけで、siri自体が考えて返しているものではありませんね。
そう考えると、著者がおっしゃるAIは基本的には計算をしているだけだというのは腑に落ちました。(著書発行時からsiriもだいぶん進化しているとは思うのですが)
されど、AIはMARICHに合格できる
なら今後もAIは人間を超えることがない。だから安心してよいものでしょうか?
人工知能ロボ「東ロボくん」は、センター模試の偏差値は57.1!これはセンター試験受験者の上位20%になるのだそうです。
私立大学512大学のうち、1343学部2993学科で合格可能性80%を得、この中にはMARCHや関関同立といった難関私学も含まれていたというのですから驚きです。
今後もAIは人間を超えることにはならないでしょうけど、もしリアルな世界で、AIと大学受験と競争しないといけないのなら、多くの学生がAIに負けるという事ですね。
AIに仕事が奪われる未来
では、今後AIに奪われる仕事って何でしょうか?
↓今後10年で消える職業とは?
日本ではピンとこない職業もありますが、ホワイトカラーと呼ばれる事務系の仕事が目立ちます。
例えば、
- 4位のコンピューターを使ったデータの収集、加工、分析
- 12位のデータ入力作業員
- 15位の証券会社の一般事務員
など。ドキッとするような職業が並びます。すでに日本でも、一般事務職の有効求人倍率は0.33倍しかない。(2020年3月)今、AIに代替えされる職業の労働価値は急激に下がっている。
AIに負けない為に必要な能力は、読解力
AIは計算が得意中の得意です。ならば人間は、人間しかできない、そう、読解力や常識、柔軟性や発想性をもった人間にならないといけない。
そして、読解力は全ての学力に繋がっています。AIと戦う以前に、学力を伸ばすためには読解力が必要不可欠だと本書を読んで学びました。
※読解力とは何か?については、池上彰氏の著書「社会に出るあなたに伝えたい、なぜ、読解力が必要なのか?」を併せて読むと理解が深まると思います。
算数にも読解力が必要
僕は日ごろから「数学は、国語」だと子どもに教えています。
僕が子どもの時に解けなかった算数の文章問題が今、解けるようになっているのは、数学を高校や大学で勉強したからではありません。ただ、文章を読めるようになったからだというのが僕の考え方です。
だから僕は娘に「数学の問題は3回読みなさい」と言っています。
3回読むと、できなかった問題も数式に落とし込めたりするんです。文章が理解できた証拠です。
つまり、算数にも読解力が必要なのです。
国語は主語述語の理解
学生の読解力に疑問をもった著者は、リーディングスキルテストRSTを開発されました。問題文には、教科書と新聞の記述を採用されています。決して難問ではありません。
RSTの問題を著書から1つだけ抜粋させていただきます。
仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアに主に広がっている
↓
オセアニアに広がっているのは( )である。
引用:AI vs.教科書が読めない子どもたち
答えは、キリスト教ですね。皆さんはわかりましたか?(この正解率は、中学生で62%、高校生で72%しかなかったそうです。)
僕が子どもに国語を教えるときに最も大事にしているが、主語と述語です。上記の文章でいえば、「仏教は」、「キリスト教は」、「イスラム教は」、が主語。述語は「広がっている」ですね。
主語と述語を最初にとらえる癖をつけておくと、文章がとても理解しやすい。これは英語も同じです。英語は、SV。主語と動詞を押さえておくと、文章がとても理解しやすいです。
御三家に入学した時点で読解力が身についている
著者の、御三家といわれる超有名私立中高一貫校に入学する子は12歳の時点で、高校3年生レベルの読解力がある。学校の教育方針のせいで、東大に入れるのではなく、東大に入る読解力が12歳の段階で身についているから東大に入れる可能性が圧倒的に高くなるのだ。という視点は面白かったです。
少し飛躍しすぎているのかもしれないですけど、僕もおおむね同じ意見です。読解力があれば、数学であれ、国語であれ、英語であれ基本的な問題は必ず解ける。
また大学では分厚い教科書を読み、論文を読み、また論文を仕上げないといけません。読解力がないのであれば、大学の教科書は読めないということです。その状態で、大学へ行っても損をするのは学生であるという著者の意見に、僕は本当に共感しましたね。
大学進学するのなら、最低、本が読める状態で行ってほしい。それは僕の一貫した主張でもあります。
読解力がない子がアクティブラーニングしても絵に描いた餅
今、思考力、判断力、表現力を養うために学校でアクティブラーニングが導入されています。一方通行の授業ではなくて、自分でテーマを決めて調べた内容を探究、議論するような授業です。
ですが、著者は教科書が理解できない学生が、自分で調べることができるでしょうか?と疑問を投げかけておられます。
まさにおっしゃるとおりです。
読解力はもちろんですが、議論するにもベースとなる知識がない学生が寄り合って議論を深めようとしたところで、よい探究はできないと断言できます。最低限、教科書を読んで理解できる子でないと、僕もアクティブラーニングは絵に描いた餅になると思います。
このように、何をするにせよやっぱり最終的には読解力につながる。
まとめ AIに負けない子どもは、教科書が読める子
著者は本書でAIができない仕事に従事できるような能力を身につけるためには、中学校の教科書を読めるようにすることだと断言されています。
AIの長所や短所を誰よりも知っていらっしゃる著者がそうおっしゃるのだから間違いありません。
僕たちは、せっかく義務教育で無償で素晴らしい教科書を配っていただいているのですから教科書を使わない手はありませんね。
塾に行くのもよいと思いますが、これからは教科書が読める、本が読めることが大事になってくると僕も思っていて、娘たちに口酸っぱく話しています。
僕が娘たちを塾に通わせるなら、「教科書を3回読んで読解力を磨く」。そういう塾があれば通わせるかもしれない。
それくらいこれからの時代は、教科書を読める子だと、本書を読んで、より強く思いました。