ずっと教育改革について発信している当ブログですが、本年最初の話題として、自己肯定感をとりあげてみたいと思います。昨年も色々な子育て本、教育本を読んできましたが、「子どもの自己肯定感を高めましょう。」と書かれている本が圧倒的に多かった印象です。
しかし僕の中では
- 自己肯定感ってそんなに簡単にあげられるの?
という疑問がずっとありました。今日はその答えを僕なりにだしましたので整理して書いてみたいと思います。
自己肯定感を高めるがよい風潮への疑問
そもそも自己肯定感とは、何なんでしょう?
「ありのままの自分でいいと肯定する気持ち」の事を自己肯定感といいます。人より優れていると自分を認める。これも自己肯定ですが、本に書かれている自己肯定感は、他者と比べる事なく、人より優れているかどうかは関係なく、本当にありのままの自分を受け入れて、それでいいんだと感じられる気持ちの事をいいます。
昨今、この「子どもの自己肯定感を高めよう」というのは、子育て本でもトレンドになっています。
ですが、この言葉は肝心の子どもの気持ちを置き去りにしているように思えて僕はなりません。
もちろん自己肯定感をもっている子どももいるでしょう。けれども、自分を認めることができなくて、苦しんでいる子どももたくさんいると思います。
果たして自己肯定が低いとダメな人間なのでしょうか?
日本人の自己肯定感は低い
日本人は他国と比べて自己肯定感が低いといわれています。他国でもビジネスを展開するようになった昨今、グローバルな視点で何でも評価されるようになりました。
自己肯定感もその1つです。
欧米では、「ありのままの自分が好き」という割合は8割にもなるのだといいます。一方で日本人が「ありのままの自分が好き」だという割合は4割程度。1
このままではグローバル社会で戦っていけない。だから自己肯定感を日本人も高めましょうよ。という風潮なのでしょう。
褒めて育てるはどの親もやっているはず・・・だが。
自己肯定感を高める代表的な方法は、子どもを褒めて育てましょう。というものです。それも、結果を褒めるのではなくて、プロセスを褒めて育てよう。という考え方です。
テストで100点を採った子どもに対して、100点という結果を褒めるのではなくて、100点を採るまでに頑張って努力したプロセスを褒めよう。例え100点じゃなくても、ありのままの子どもを褒めてやろうというわけです。
確かに大事な考え方だと思います。
ですが、情報社会が進んだ日本、親の誰もがテストの点数ではなくて、プロセスを褒めるということは知っていて、どの親も今や常識のように行っている行為だと僕は思います。
しかしそれで、子どもが皆、自己肯定感が高くなったでしょうか?
内閣府の令和4年版子供・若者白書で、今の自分が好きだとする自己肯定感は2016年の44.87%と比べて2019年は46.5%と若干あがってはいますが、以前4割台と低迷しています。2
この結果からも、答えはNoではないかと思います。
自己肯定感が高い人が成功するとは限らない
そもそも自己肯定感が高い人=幸せな人なのでしょうか?例えば、多くの収入を稼いでいる人や、社会的に認められた著名人はみんな、自己肯定感が高いのでしょうか?
「夢の叶え方はひとつじゃない」の著者であり、TwiceやBTSなどに楽曲を提供する等グローバルに活躍されている作詞作曲家の岡嶋かな多氏は、学生の頃ずっと自己肯定感が低かったとおっしゃっています。
自己肯定感が低いと認識しながらも、もがきながら今の地位を確立された。自己肯定感が高かったから成功されたのではない、結果が出て、後から自己肯定感が高くなった。それが岡嶋かな多氏です。
イチロー氏が感じる自己肯定感への違和感
他方、元大リーガーで、日米通算4,000本以上のヒットを重ねた野球界のレジェンドであるイチロー氏が自己肯定感について語っている動画があります。
イチロー氏は、自己肯定感という言葉を初めて聞いたとおっしゃったうえで、
「自分を肯定するの、ものすごい抵抗がある」
とおっしゃった後、鋭い指摘をされる。
あきらかにダメなのに否定されない。ということは自分でも振り返らない。第三者からも厳しい事はいわれない。人間で弱い生物だから、僕は堕落すると思います
「褒めて育てる」を意味をはき違えるといけない。
大リーガーとして、スーパースターとして活躍されたイチロー氏の中に、自己肯定感という言葉はありませんでした。
野球で記録やいいヒットを打った時は「自己肯定感」を感じるのではなくて、「手ごたえ」を感じるとおっしゃっている。手ごたえがあれば、次が楽しみ。できなかったことができることが好きと。
ここに自己肯定感のヒントが隠されているように思います。
本当に子どもの自己肯定感は高める方法とは?
子どもが自己肯定感を高めるのはそう簡単ではない
僕自身、自己肯定感は簡単には高められるものではないと思っています。
例えば親が子どものプロセスを褒め、ありのままの子どもを愛することができたとして、子どもの自己肯定感があがったとします。
ですが、子どもたちはいずれ親の元を離れ、社会に出ていきます。他者を気にせず生きていければそれが一番いいですけど、先生に、友だちに認められたい。そう思うのが、普通の子どもではないでしょうか?
先生にも、友だちにも、学校にも認められないのに、ありのままの自分でいいんだと自己肯定感を保つことを子どもに求めるのは酷だと思います。
人は弱い生き物です。やはり承認欲求があり、一定、他者に認められる事で自己肯定感は高まっていく。と考えるほうが自然です。
自分で何かを成し遂げた時に自己肯定感は高まる
僕は断言したい。自己肯定感を高めるのはそう簡単なことではないし、まして親が高められるのにも限界がある。ではどうすれば子どもの自己肯定感を高める事はできるのでしょうか?
子ども自身が、何かを子ども自身で成し遂げた時に、自己肯定感が高めるんだという事を断言したいと思います。
親が褒めて育てることも大事かもしれません。ですが社会に出れば、親は褒めてくれても社会は簡単には褒めてはくれません。家の中で築いた自己肯定感も、社会では簡単に通用しない。
自己肯定感を高める為には自己効力感が必要だというのは、子どもの自己効力感を育む本の著者・松村亜里氏。自己効力感というのは、自分自身で何かに挑戦しようという気持ちですが成功体験を積み重ねる事で生まれる気持ちなのです。
上述の岡嶋かな多氏もまさに、自ら小さな成功体験を積み重ねる事で、徐々に自己肯定感を高めていかれました。
確かにプロセスを褒める事で、子どもの挑戦しようという気持ちを引き出すことができます。ですがそれだけで自己肯定感が高まるのではなくて、成功体験を得ることで何より子どもの自己肯定感を高めるといっていいでしょう。
男の子の「自己肯定感」を高める育て方の著者で、元開成高校の校長先生だった柳沢幸雄氏は、著書の中で、18歳になったら一人暮らしをさせなさいとおっしゃっている。
親が用意した環境ではなくて、自らで環境を切り開いて這い上がっていく。その達成感や成功体験が、子どもの自己肯定感を高めるというわけです。そのとおりだなと思います。
褒めて育てるの意味をはき違えない。
今は何でも褒めて育てよう、競争はやめましょう。という風潮です。
ですが、褒めて育てよう、競争はやめましょう。という風潮に待ったをかけられている稀有な方がいらっしゃいます。「伸びる子どもは〇〇がスゴイ」の著者・榎本 博明氏です。
自己肯定感が高いといわれる欧米では誉めて育てるのが上手いと言われますが、本書では子どもに対する親への従順等の期待値は日本より遥かに高いことを紹介されています。日本よりも親は子どもに厳しいのですね。
出来る子というのは、立ち直る力もスゴイ。この能力のことをレジリエンスといいます。スゴイ子というのは、自己肯定感が高いというよりもむしろ、やってやろうという気持ち、自己効力感が強い、もしくは失敗してもまた挑戦しようというレジリエンスが強いのです。
ただ褒めて育てるだけで、厳しい事から目を反らしていては、競争から逃げたり、叱られると簡単に諦めたりする。これではやってやろうという気持ちが育たないし、結局、自己肯定感も高くならない。
親が出来る事は環境を用意してやることだけ
いずれにせよ、親というのは子どもの自己肯定感を高めることは完璧にはできないのだなという理解が必要です。
親が子どもの自己肯定感を高めてやろうと思うのは素晴らしいことだと思うのですが、親というのは、特に子が思春期になってからは出来る事は何もない。
出来るとすれば、子どもが挑戦したいと思う事に対して環境を用意してやることくらいかな。と思います。それでも、結局はもがきながら、自分自身で成功体験を積み重ねながら、自ら自己肯定感をあげていくしかない。それが結論です。
子どもではなくて親自身の自己肯定感を高めよう
これまで子どもの自己肯定感を親が高めようという風潮に疑問を呈してきました。
ただし、ここでもう
1つ共通して色々な教育本に書かれている子どもの自己肯定感を高める方法を最後に紹介したい。これは子どもを褒めて育てるよりも、はるかに有効な方法です。
それは、親自身の自己肯定感を高めようというものです。
時に親は子どものために自分を犠牲にしがちです。その結果、自分自身が叶わなかった夢を子どもに押し付けたり、子どもに自分自身のストレスをぶつけてしまったりする。子どもを愛している事が伝わらず、子どもの自己肯定感は下がってしまう。
だからこそまず親自身がやりたい事をして、生活を充実させることが大切。自分自身の満足感や幸せ度は、子どもに伝染するのだそうです。これが子どもの自己肯定感を高めるうえで一番効果的な方法である。
多くの教育本を読んできましたが、これは本当にそうだろうなと思う。今年一年は、僕自身がしたい事に挑戦し、自らの自己肯定感を高めようと思う。